医療安全管理者の皆さん、毎月の委員会で改善策を策定する際、「同じ提案を繰り返していないか?」と気にされることはありませんか?

現場の改善策はマンネリ化しやすいもの。
しかし、重大なインシデントを防ぐため、新しい視点からのアイデアが求められます。

ここでご紹介するのは、私たちe-Riskn CSチームが20年以上全国の病院様へインシデントレポートシステムを導入してきた経験から得られた知見です。
この記事では、実際に病院様で行われている取り組みをご紹介し、新たな視点でインシデント管理を考えるための参考にしていただければと思います。

1. 外部の視点を取り入れる

外部の専門家や他部署の人間の意見を取り入れることで、異なる視点からの改善策が得られる可能性があります。
新鮮な提案や違った考え方が期待できます。

2. 多角的な分析で深掘りする

一つの視点や方法論に固執せず、さまざまな分析手法を活用することで、インシデントの背後にある真の原因や影響を深く探ることができます。
以下に、医療安全インシデントの解析に有効な分析手法をいくつか紹介します。
これらの手法の詳細や実際の適用については、専門の参考文献や資料をご参照いただくことをお勧めします。

KYT基礎4R法

職場や業務に潜む危険を発見・把握・目標化する手法です。
4ラウンドに分けてメンバーで意見を出し合いながら段階的に進めていきます。

1ラウンド現状把握:どんな危険が潜んでいるか
2ラウンド本質研究:これが危険のポイントだ
3ラウンド対策樹立:あなたならどうする・私ならこうする
4ラウンド目標設定:私たちはこうする

4M5E分析

特定の問題が発生した際の原因を4つの「M」の視点で分析し、5つのEの観点で多面的に考察をし、具体的な改善策を導き出します。

4つの「M」

Man人間
Machine機械・設備
Media情報・環境
Management管理・教育

5つの「E」

Education教育・訓練
Enginnering技術・工学
Enforcement強化・徹底
Example模範・事例
Environment環境・背景

P-mSHELL分析

SHELLモデルとは、当事者である人間が最適な状態を保つためには4つの要因(ソフトウェア、ハードウェア、環境、当事者以外)が影響していることを意図したもので、当事者を含めた5つの要因から分析します。
P-mSHELLモデルとは、SHELLモデルに「P(Paitient:患者)」「M(Management:管理)」を加え、より医療に特化した分析方法です。

Patient患者例:病状、心理状態、価値観
management管理例:組織、職場の雰囲気
Softwareソフトウェア例:マニュアル、チェックリスト
Hardwareハードウェア例:操作スイッチや計器など
Environmen環境例:作業環境(温度、湿度、照明、騒音)
Liveware当事者例:身体状況、心理状態
Liveware当事者以外例:コミュニケーション、リーダーシップ

複数の分析手法を組み合わせることで、医療安全のインシデントを多角的に理解し、より有効な改善策を策定することが可能となります。
委員会では、適切な分析手法を選択し、深く考察することをおすすめします。

3. 前回の改善策の振り返り

前回の委員会での改善策は、実際にどれくらい効果があったのか?
その策が現場でどのように受け入れられたのか?
これらの点をしっかりと振り返ることで、新しい改善策のヒントが見えてくることがあります。

状況:前月の委員会で、病棟における転倒事故が増加しているというインシデントレポートが取り上げられた。

前回の改善策

  1. 転倒リスクが高い患者には黄色のリストバンドをつけて識別する。
  2. ベッドサイドに滑り止めのマットを設置する。
  3. 夜間照明の光度を上げる。

今回の委員会での振り返り

  1. 黄色のリストバンドの導入
    • 実施状況:全ての転倒リスク患者にリストバンドを導入済み。
    • 結果:スタッフはリスクのある患者を識別しやすくなったが、患者同士での意味の誤解や不安が報告された。
    • 次のアクション:リストバンドの意味と目的について、患者やその家族への説明を強化する。
  2. 滑り止めのマット設置
    • 実施状況:ほとんどのベッドサイドにマットを設置済み。
    • 結果:マットの上での転倒事故は減少したが、一部の患者から歩きにくいとのフィードバックがあった。
    • 次のアクション:マットの素材やデザインを再検討し、改善案を提案する。
  3. 夜間照明の光度上昇
    • 実施状況:全病棟での照明強度を調整済み。
    • 結果:夜間の転倒事故は減少した。ただし、一部の患者から眩しいとの声が上がっている。
    • 次のアクション:照明の位置や角度を調整する、または光の強度を部屋ごとに調整できるシステムの導入を検討する。

今回の改善策策定: 前回の改善策を元に新たな改善策を立案。
例えば、転倒リスクをさらに減少させるためのトレーニングの導入や、ベッドサイドのレイアウト変更など、具体的な新しいアクションを策定する。

4. 現場の声を直接取り入れる

実際の業務を行っている現場のスタッフからのフィードバックは、実効性のある改善策を策定する上で非常に価値があります。
以下に、現場の声を収集するための手法をいくつか紹介します。

1. ラウンド訪問

管理職や医療安全管理者が定期的に現場を訪れ、直接スタッフとコミュニケーションをとることで、現場の意見や懸念を直接聞くことができます。

2. アイデアボックスの設置

匿名で意見や提案を収集するためのボックスを各部署に設けます。
期間を定めて集められた意見を開封し、適切な改善策のヒントとして活用します。

3. 定期的なワークショップやフィードバックセッション

特定のテーマや問題点について、スタッフとともに集まりディスカッションをする時間を設けます。
このようなセッションでは、多くの新しいアイデアや視点が出てくることが期待されます。

4. アンケート調査

具体的なテーマや問題点に対するスタッフの意見や感じている問題を、アンケート形式で収集します。
結果を集計・分析し、具体的な改善策を考える材料とします。

5. 他院の事例を参考にする

他の病院や施設での成功事例を調査し、それをベースに自院の状況に合わせてアレンジすることで、新しいアイディアや方法を見つけることができます。

当HPでも病院様の医療安全の取り組みをご紹介しています。
ご参考になれば幸いです。


医療安全管理者としての使命は、日々の業務をより安全にすること。
新しい視点や方法での改善策の提案が、その使命達成の一助となることを期待しています。
このコラムが、新たな視点の獲得の助けとなれば幸いです。