医療安全管理者の皆さん、心理的安全性について、どのくらいご存知でしょうか?
心理的安全性は、スタッフが安心してインシデント報告を行える環境を築くために欠かせないものとなっています。

「インシデントレポートを書いている時、周囲に『あいつはミスをした』という空気が漂っている。だからインシデント報告はなるべく避けたい。」 そんな考えをお持ちの看護師様も少なくないでしょう。

心理的圧力は報告の質や頻度に影響を与えます。
ここでは心理的安全性の概要と、その育成方法について探ります。

心理的安全性の重要性

心理的安全性とは、自身の意見や懸念を、罰や拒絶の恐れなく表現できる状態のことを指します。
心理的な安全性が低い職場では、否定や批判、言い訳や自己弁護、虚偽報告が慢性化し、インシデント報告へも影響します。
インシデント報告を積極的に行えることで、早期に問題を見つけ、解決策を提案しやすくする土壌を作り、患者さんに安全で高品質なケアを提供できることに繋がります。

point!心理的安全性が低いことでもたらされる4つの不安

  • 無能だと思われる不安
  • 邪魔をしていると思われる不安
  • ネガティブだと思われる不安
  • 無知だと思われる不安

職員を甘やかす、「ぬるま湯組織」との違い

「罰や拒絶の恐れなく表現できる状態」を聞いた方の中には
「職員を甘やかしてばかりいる状態なのでは?」
「仕事を怠けているスタッフを叱ることができなくなるのでは?」

などの「ぬるま湯組織」になるのでは?と思った方もいるでしょう。
「ぬるま湯組織」とは、現状の居心地の良さを維持するために、自身の意見を主張できない組織のことを指します。
「ぬるま湯組織」の特徴は以下のような点が挙げられます。

  1. 職場での緊張感が無い
  2. 業務への意識が低い
  3. 成長意欲が低い
  4. チーム内の人間関係が希薄

一方で、心理的安全性が高い組織では、異なる意見や新しいアイデアが尊重され、ミスや問題点を指摘できる環境があります。
したがって、心理的安全性を高めることが「ぬるま湯組織」を生み出すわけではないことを理解し、チーム全体を正しい方向に導きましょう。

心理的安全性とインシデント報告の関連性

心理的安全性が低く、批判や否定の空気が蔓延している場では、インシデント報告が抑制される傾向にあります。
報告されたインシデントも、原因追及時には責任を逃れるために言い訳や虚偽の報告が増える結果を招いてしまいます。

逆に、心理的安全性の高い職場環境は、インシデントの報告件数が多いことは良い兆候であることを理解している為、職員は積極的にインシデント報告やゼロレベル報告を行うことができます。
それによって潜在的なリスクを早期に捉え、改善する動きが生まれます。
職場の心理的安全性を高めることで結果として安全で質の高いサービス提供へと導くことが可能となります。

心理的安全性の高い職場環境を築く方法

では、どのようにしてこの安全な職場環境を築くことができるのでしょうか。
以下にいくつかの方法を挙げてみましょう。

アイスブレイク

アイスブレイクとは、ちょっとしたゲームや雑談を通じて参加者の緊張をほぐし、コミュニケーションを活性化させる方法です。
特に会議中に発言が途切れてしまった時などに活用すると、チームメンバーが気軽に意見を共有しやすくなります。
アイスブレイクはただのゲームや雑談というだけではなく、心理的安全性を築き上げる重要な工程となります。
以下に、おすすめのアイスブレイクテーマをご紹介します。

自己紹介ラウンド

  • 自己紹介ラウンドとは、チームやグループのメンバーがお互いに自己紹介を行うアクティビティです。
    新しいメンバーが加わったときや、長期間一緒に仕事をしているチームでも、定期的に自己紹介を行うことで、メンバー間の理解を深めることができます。

GOOD&NEW

  • GOOD&NEWは、24時間以内に起きた「良かったこと」や「新しく知ったこと/気づいたこと」をそれぞれ発表します。
    仕事についての喜びでも、昨日食べた美味しかったものや、テレビやSNSで見かけたニュースなど、ささやかな喜びや気づきを発表することで、ポジティブな思考を促す効果もあります。

ポジティブインシデント報告活動

インシデント・アクシデント報告の際に、一行の感想でもよいので「なぜ事故をそのレベルのインシデント・アクシデントに留めることができたのか」コメントを記載して報告して貰う活動の事です。
ここでのポイントは、成功体験も積極的に報告し、それを基にさらなる改善を進める文化を築くことです。
この活動は近畿大学病院で行われており、最も多く有効なコメントを報告できた個人・チームに食堂の食券を表彰することで、活動に対して肯定的にとらえる姿勢が取れているとのことです。

まとめ

心理的安全性が高まることで、職員はインシデント報告を行いやすくなり、それにより潜在的なリスクの早期発見と解決が可能となります。
しかし、心理的安全性を高めるためには、ただ職員を甘やかすのではなく、オープンなコミュニケーションと協力的な文化を育む必要があります。
そしてそのような環境づくりは、リーダーからトップダウンによるアプローチだけでなく、ボトムアップのアプローチも重要となります。

このように、心理的安全性は職場環境を改善するだけでなく、インシデント報告の質と量も向上させる重要な要素となります。