医療安全管理者の皆様、「インシデントレポートの提出がなかなか習慣化しない・提出が遅い」というお悩みはありませんか。

「医療安全管理指針」または「医療に関わる安全管理のための指針」では、組織・体制・取り組み・医療事故等発生時の対応などについて定めています。指針の中で、インシデントの報告制度を設けている病院様も多いのではないでしょうか。
実際のインシデントレポートの記載内容や提出方法については、個別に作成ルールを設けて周知徹底する必要があります。

この記事では、より職員が書きやすく・報告しやすい環境を整えるための工夫をふくめて、インシデントレポートの提出がスムーズになる作成ルールのポイントを5つご紹介します。

「どうすればインシデントレポートの提出が習慣化し、提出が早くなるだろうか」という悩みのお役に立てば幸いです。

なぜ作成ルールを作るのか

作成ルールがあると、運用や記載内容をある程度統一できます。
運用や記載内容が統一できると、レポートの修正も減り、提出までのスピードも速くなります。

どのような内容を書けばいいか、どの項目を選んだらいいか、現場の職員が迷う部分をあらかじめ例示しておくことで、記入の面倒さや心理的なハードルを下げることにもつながります。

また、普段あまりレポートを作成しない部署や職員がいざ書くときや、新入職員へ新任の委員会メンバーや管理者の教育を行うときなどにも使用できます。

作成ルールで定めたいポイントとは

作成ルールで定めたいポイントとしては、以下の5つがあります。

  • 作成方法
  • 作成内容
  • 提出後の対応
  • 各役職の役割
  • 提出後のレポートの取り扱い

作成方法

作成して欲しい人

インシデントの当事者・インシデントの発見者や対応者・何かしら関りがあって状況をよく理解している職員が該当します。

作成の仕方

  • 紙やExcel・Wordで運用している場合の例
    所定の様式をうめて、紙またはデータで提出します。
    所定の様式が、どこにあるのか保管してある場所(共有フォルダの場所)も記載しましょう。
  • システムで運用している場合の例
    システムにて入力し、データで提出します。
    システムの入り口や起動方法、レポートを新規作成する方法も合わせて記載しましょう。

提出先

インシデント発生時に、口頭報告をするよう定めている病院様も多いと思います。

作成したレポートは、誰に(直属の上司や部署のリスクマネージャーまたは医療安全管理者)提出するかを決めます。夜勤や休日の際にはどのようにするのか、提出先が変わるのかというのも検討しておきましょう。

作成のタイミング

口頭報告とは別に、いつまでにレポートを作成し提出しなければならないのか記載します。
可能であれば、3日以内(72時間以内)のように何日以内・何時間以内と指定するとわかりやすいルールになります。

作成内容

事故レベルの選択方法

レベル0  エラーや医薬品・医療用具の不具合が見られたが、患者に実施されなかった
レベル1患者への実害はなかった(何らかの影響を与えた可能性は否定できない)
レベル2一過性の軽度な障害:処置や治療は行わなかった(患者観察の強化、バイタルサインの軽度変化、安全確認のための検査などの必要性は生じた)
レベル3a一過性の中等度な障害:簡単な処置や治療を要した(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など)
レベル3b一過性の高度な障害:濃厚な処置や治療を要した(バイタルサインの高度変化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延長、外来患者さんの入院、骨折など)
レベル4a永続的な軽度~中等度な障害:永続的な障害や後遺症が残ったが、有意な機能障害や美容上の問題は伴わない
レベル4b永続的な中等度~高度な障害:永続的な障害や後遺症が残り、有意な機能障害や美容上の問題は伴う
レベル5死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)

職員が、レベル0~レベル5までの事故レベルのうち、どれを選択すればいいのかわからない・迷うというご相談をよくいただきます。
他部署や他職員が作成したレポートを読んで、何となく選んでいるというお話も聞きます。

具体的にどういったインシデントがどのレベルに該当するか例を記載すると、迷わず選びやすくなります。

各項目の書き方

医療安全管理者様からは、職員の書いた文章がわかりづらい、必要なことが書いていない、間違った選択肢が選ばれている…等のお悩みも良くお聞きします。

作成ルールに、どのような内容を記載して欲しいのか、どの選択肢を選ぶべきかという例示をいくつかのせても良いかもしれません。

  • 記述式の事故内容の書き方例
    最低限書いてほしいことや守ってほしいことを記載しましょう。
  • いつ、どこで、誰が、何をしたか、結果どうなったかを記載する
  • 事実をわかりやすく書く
  • 自分の主観(気持ちや反省、推測)は書かない
  • 選択式の事故内容の選び方例
    どのインシデントの際に、どの事故内容を選んでほしいのか具体例を記載します。
  • 胃管の自己抜去の際に、どの事故内容を選べばいいか
  • 注射薬のアンプルを破損してしまった際に、どの事故内容を選べばいいか
  • リハビリ中の転倒の際に、どの事故内容を選べばいいか
  • ラベル・スピッツの紛失による採血漏れの際に、どの事故内容を選べばいいか

提出後の対応

カンファレンスの必要可否

部署内でのカンファレンスはいつ行うか、どのようなインシデントが発生した場合に行うかを定めます。例えば、レベル1以上の報告があった際にはカンファレンスを行う、年間計画で取り組んでいる患者誤認の報告があった際にはカンファレンスを行う等です。

カンファレンス後の対応

検討した内容や結果は、どこに誰が残すのかを記載します。

例えば、レポートの原因や改善策の欄に追記する、カンファレンス結果の欄に残す、コメントとして残す等、様式やシステムによって様々です。

全部署を対象にしたカンファレンスや委員会については、「医療安全管理指針」でさだめている病院様も多いかと思います。

各役職の役割

担当部署の上司・リスクマネージャー

レポートを確認し、必要に応じて修正の指示を出します。

原因や対策へのアドバイスや、部署内のカンファレンスで検討した内容・結果を残します。

紙やシステムで、順番にレポートを確認・承認している場合は、何日以内にレポートを確認するか・次の承認者へ提出するかということも決めておいた方が良いでしょう。

医療安全管理室・医療安全管理者

レポートを確認し、必要に応じて修正の指示を出します。

医療安全管理室・医療安全管理者の役割や対応については、「医療安全管理指針」で定めている病院様が多いかと思います。

レポートが一通り完成した後には、後述の「提出後のレポートの取り扱い」に従いレポートを保存したり共有したりします。

提出後のレポートの取り扱い

報告後のレポートをどのように扱うのかも決めておく必要があります。

保存期間

紙で運用している場合も、システムで運用している場合も、記載後のレポートを保存するのかどうか、保存する場合は何年保存するのか決めます。

保存期間5年・保存期間3年・保存期間2年など、院内で保存期間が定められている他の書式の規定に合わせて決めている場合が多いようです。

保存方法

どこにどのような形式で保存しておくのかを決めます。

  • 紙で運用している場合の例
    医療安全管理者が、医療安全管理室の棚に年度ごとにファイルで閉じて保存します。
    保存期間を過ぎたレポートは、個人情報に注意して破棄します。
  • ExcelやWordで運用している場合の例
    医療安全管理者が、院内の共有フォルダの定められた場所に年度ごとにPDF化して保存します。
    保存期間を過ぎたレポートは、フォルダごと圧縮します。
  • システムで運用している場合の例
    システムを運用しているサーバーにデータが蓄積されています。
    保存期間を過ぎたからと言って、特にデータを消す必要は無いでしょう。

院内での周知徹底

せっかく提出してもらったレポートは、院内の共有財産として再発防止に役立てたいものです。

誰に、どのような方法でレポートの内容を確認してもらいたいかを決めます。

レポートの内容を共有する際には、報告者・当事者といった職員の個人情報や患者様の情報など、どこまで見える状態にするのか、慎重に検討する必要があります。

  • 紙やExcel・Wordで運用している場合の例
    見てほしいレポートをまとめて印刷し、各部署に配布します。
    各部署でのカンファレンスや申し送りで共有する、各自自由に回覧する方法があります。
    各自で確認してもらう場合は、おおよそ何日以内に見てほしいのかも定めた方がよいでしょう。
  • システムで運用している場合の例
    システムによって異なりますが、レポートを共有する機能を使用します。
    システムで確認してもらう場合も、おおよそ何日以内に見てほしいのか定めたほうがよいでしょう。
    システムを見る習慣をつけてもらうために、1日1回・出勤時などチェックするタイミングをお知らせするのもおすすめです。

作成ルールを作成した後に

せっかく作った作成ルールは、各部署や職員へ周知する必要があります。

例えば、医療安全関連のマニュアルに書き加えたり、年2回の全体研修や新入職員向けの研修でお知らせをしたり、インシデントレポートを書く際に見えるようにしたりすると、より効果的に周知が出来ます。

特に報告内容の部分など、定期的に見直しを行えばより運用しやすい作成ルールに育っていくはずです。

弊社がシステムを導入する際には、システム運用をスムーズにするためにも、ルールの見直しや作成をお願いする病院様もございました。

システムの操作研修を行う際に、あわせて作成ルールの周知もできますのでおすすめしています。

まとめ

この記事でご紹介した、インシデントレポートの提出がスムーズになる作成ルール5つのポイントは、実際に病院様に相談された内容をもとにまとめています。

インシデントレポートの提出がなかなか習慣化しない・提出が遅い、とお悩みの医療安全管理者様はぜひ試してみてください。