社会や患者側の医療安全への意識が高まる今、医療安全管理者の業務範囲や責任は増える一方です。 たくさんの医療安全管理者とお話しするなかで、「おひとりさま医療安全管理者」として活動している方、兼任で他の業務も担当されている方が想像以上に多いことに驚きました。
他病院での取り組みを参考にしたい・活動のヒントが欲しいと思っても、情報収集の場である学会や勉強会へ参加するハードルは高いのではないかと感じています。

そこで、医療安全管理者のお役に立てないかと、各病院様の医療安全の取り組みを取材し情報発信する取り組みを始めました。

第3回目は、社会医療法人恒心会 恒心会おぐら病院 医療安全管理者 原田(はらだ)様と、隈元(くまもと)様を取材しました。
新たに始めた試みや地域の病院との関わりについてなど、普段行われている医療安全の活動について伺いました。

病院様の医療安全体制について教えてください。

原田様:医療安全管理者は専従で、私が担当しています。隈元師長は手術室師長で、医療安全委員会の下部組織である小委員会の委員長を担当してもらっています。
医療安全委員会と小委員会を月1回、医療安全カンファレンスを週1回行っています。

普段の活動としては、毎朝レポートをチェックして対応が必要な報告があれば、現場を見に行ったり話を聞いたりしています。合間に委員会やカンファレンス、医療安全情報を作成しています。倫理委員会・薬事委員会等、院内の様々な委員会にも参加しつつ、地域の病院と作る医療安全管理者ネットワークの活動もしていますね。

レポートの報告件数は約200件/月です。
昨年の傾向としては、転倒転落や薬剤の確認に関するレポートが多かったです。

原田様:昨年の傾向をふまえて、小委員会のメンバーと「確認行動」に特化して取り組むことにしました。「ダブルチェックの徹底」・「しっかり確認をする」というようなありきたりな改善策ではなくて、各部署ごとに整理分析をして強み・弱みを把握しながら要因を見つけようとしています。

隈元様:小委員会は、看護部・栄養・薬剤・リハビリ…等、様々な部署のメンバーで構成されています。レポートの整理分析にはいる準備として、SHELL分析について、動画教材に口頭で補足しつつ勉強会をしました。
来月から自部署の確認不足による事例を持ち寄り、グループで話し合っていく予定です。
メンバーの分析力が上がって、将来的には自部署で効果的な分析・対策が取れることを目指しています。管理者や委員会から発信しなくても、各現場で分析ツールや統計を使えるようになるといいですよね。

いつも報告ありがとうございますから始まる、ユーモアあふれる医療安全情報

院内で掲示している「医療安全情報」は、「いつもインシデント報告ありがとうございます」から始まります。
原田様は、とある講師の先生から「医療安全に大切なのはユーモア、あなたにはユーモアがあるから天職よ!」と言われたとのこと。
パッと目を引くタイトルとくすっと笑えるイラストが、柔らかい雰囲気で興味を引きます。
また注意喚起だけではなく、「グット」なニュースもちりばめられています。
個人的には、教えていただいた「社会的手抜き」という概念に、身に覚えがありすぎてドキッとしました。

医療安全相互ラウンドについて教えてください。

原田様近隣の3病院と相互ラウンドを行っています。感染症対策のため、例年9月・10月で行うことが多いですね。
医療安全の専任医師や管理者をはじめ、ラウンドする部署や内容によって行くメンバーは変わります。自院をラウンドしてもらう際には、どの部署を重点的にラウンドしてもらうのか事前に決めます。

隈元様:例えば、手術室をラウンドした際には「似た機材が同じところに置いてあるので、場所を分けたほうが良いですね」とか、配置薬間違いがあった際には「配置カートの検討をしたらどうですか」というような感じで、改善箇所を指摘します。
その他にも、医療安全情報(医療安全ニュース)やレポート件数を増やす工夫を共有する意見交換の時間もあります。

審査を受けた後は、指摘された箇所を3か月後に報告しなければいけません。
こんな風に改善しましたと報告できればいいのですが、時間のかかる問題については今行っている取り組みや進捗状況を報告するケースもあります。

院内ラウンドについて教えてください。

原田様毎月、前月のレポートの中で業務改善が必要なものをピックアップして、医師も含めた医療安全メンバーでラウンドしています。緊急で対応して欲しいところは写真で共有したり、カンファレンスで該当部署に改善をお願いしていますね。

嫌なこと・出来ていないことも指摘しないといけないのですが、まずは「敵をつくらない」・「相手を否定せず受容する」ように言い方・対応の仕方は気を付けています。

隈元様:誰しもミスをしたくてしているわけではなくて、一生懸命やっているのに、チクチク言われたら嫌になる気持もわかります。医療安全のお仕事は、皆さんにレポートを書いてもらわないと仕事が始まらないので、どんな情報でもください、レポートを出してくれてありがとうございます、皆さんの情報は宝です!という姿勢で臨んでます。

編集後記

恒心会おぐら病院様の医療安全の取り組みを取材しました。
原田様と隈元様、管理者の視点と現場の視点をふまえつつ、お二人の明るさと息ぴったりのご回答で、笑いの絶えないインタビューとなりました。

取材途中の、「医療安全管理者は敵を作らないこと」というワードがとても印象的で、改めてバランス感覚の必要とされる難しい役割だなと実感しました。
つい、忘れがちになってしまう「ユーモア」も大事にしようと思った取材でした。

e-Risknは、これからも「おひとりさま医療安全管理者」様へ、パワーと勇気を届けられるようなコンテンツを目指して作ってまいります。