コロナ禍でより医療安全への意識が高まる今、医療安全管理者の業務範囲や責任は増える一方です。
これまで情報収集の場となっていた学会や地域の連携会議も、開催中止・オンライン対応を迫られています。 そんな状況下で医療安全管理者に向けて何かお役に立てないかということで、各病院様の医療安全の取り組みを取材し情報発信する取り組みを始めました。
記念すべき第1回目は、高梁市国民健康保険成羽病院 高下(こうげ)様を取材しました。 高下様は、外来師長兼医療安全管理者として活動されていらっしゃいます。 病院内で取り組まれている医療安全の活動について伺いました。
院内の医療安全体制について、教えてください。
医療安全管理室は、7名(医師:1名、薬剤師:1名、事務:1名、看護師:4名)が所属しています。
医療安全管理室に所属する看護師は、岡山県看護協会のリスクマネージャー研修に参加・修了したメンバーで、病棟業務の中で医療安全に関わるところでも活動しています。
それとは別に、下記組織を設置しています。
- 各部署の部署長が所属する医療安全委員会
- 実働部隊として活動し多職種で構成する医療安全推進チーム
- 看護部 医療安全委員会
医療安全推進チームは毎週水曜日に会議を行っています。 その週にあったゼロレベルやインシデントの共有・対応策の協議をしています。 また、チームのメンバーで月1度は院内ラウンドを実施しています。
医療安全の取り組みとして、取り組まれていることを教えてください。
ゼロレベルの報告を10年以上続けています。 院内全体で、約60件/月の報告が上がってきます。
ゼロレベル:実際には発生しなかったが、ヒヤリハットした業務上の事象
ゼロレベルの運用を始めたきっかけはありましたか?
当時の看護部長・師長が中心になって、取り組み始めたと聞いています。
なかなか歴史の長い取り組みなので、直接的なきっかけがわからないほど定着しています。
当病院には、高梁市に縁があった中途採用・再就職の方が多くいらっしゃいます。
経験者が集まっている職場なので、それぞれの病院で経験したことを踏まえて気づいたことを報告してくれているのではと思っています。
インシデント、アクシデントに発展し得るリスクを事前に察知する必要があるため、件数を集めるのはなかなか難しいのでは無いでしょうか?
もちろん意識が高まる時期・少しトーンダウンしてしまう時期で、件数のばらつきはあります。
ここ数年は取り組みが浸透したのか、全部署が参加するようになり、薬剤部や検査部からも約10件~20件/月の報告が上がってくるようになりました。
文化として根付いているということですね。今、力を入れている取り組みはございますか?
特に今年度は、「患者誤認を防ぐ」という取り組みに注力しています。
元々、今年度は機能評価の更新を予定していました。
マニュアルを何個かチェックしていく中で、「患者確認」ってちゃんと出来ているだろうかと振り返りまして。 ちょうど同じ時期の委員会でゼロレベルの報告を行った際にも、「患者確認」に関する意見がメンバーから上がってきました。患者誤認のゼロレベルやインシデントが増えている訳では無いのですが、良い機会だったので集中して取り組むことにしました。
具体的な取り組み内容を教えてください。
以前は、医療安全推進チームのメンバーが院内ラウンドする際に予め決めた項目に沿ってチェックを行っていました。
今年度も危険な個所が無いかといった基本的なチェックは継続して実施していますが、「患者誤認を防ぐ」取り組みに焦点を当てた方法に切り替えました。
まずは各部署持ち回りで、患者様の確認をどのように行っているか院内ラウンド中に実践してもらい、確認しています。 患者確認だけではなくて、検査内容など何にしても確認作業をきっちりしていこうという意識になってきたのは良い傾向だと思っています。
マニュアルのお話しがありましたが、高下様・医療安全推進チームの方が見直し・整備をされているのですか?
私からは、医療安全推進チームが中心となって各部署のマニュアルを見直すよう号令をかけています。
マニュアル自体の数も多く、少し変更を加えると色々なところに影響が出ます。 改訂もきちんとしていかないといけません。マニュアルと現実の運用がちぐはぐになっていないか、チェックも必要です。
今後はそのあたりを見直し出来たらいいなと思っています。
高下様、今日はありがとうございました!
編集後記
成羽病院様の医療安全の取り組みを、取材しました。 「発生しなかった事象(ゼロレベル)」「これまでのキャリアで経験したことからの気づき」を報告・共有することが病院の文化として根付いている点は、大変驚きました。
これまでインシデントレポートを書く・報告する・集計するといった部分に目が行きがちでした。 報告されたレポートをどのように普段の活動にいかすのか、施策まで落とし込むのかという点も、まだまだ勉強したいと思った取材でした。