令和8年度(2026年度)診療報酬改定の議論も深まってきました。
前回の令和6年度(2024年度)改定では、身体拘束最小化の取り組みやDPC病院での機能評価係数Ⅱの見直しに伴う医療の質の評価(転倒転落 発生件数他)など、医療安全の中の重要な論点・テーマではあるけれども、どちらかといえば関連する分野の変更が見られました。
DPC病院の医療安全管理者様は、事務部統計の取り方などを確認・見直された方も多かったのではないでしょうか。
今回は、例年あまりふれられなかった医療安全管理体制そのものに関する議論がされています。
本記事では、令和8年度(2026年度)診療報酬改定で検討項目とされている医療安全に関する議論についてご紹介します。
議論の参考として、各病院の医療安全の具体的な取り組みを紹介する資料も共有されています。
普段の活動の参考になる資料ですので、そちらもご覧ください。
※ここで紹介する内容は2025年12月17日現在の情報に基づいており、最終的な診療報酬改定の決定事項ではありません。
令和8年度診療報酬改定 医療安全に関する検討項目
どこで議論されているか
診療報酬改定に関する議論は、厚生労働省の中央社会保険医療協議会で議論されます。
医療安全が取り上げられたのは、「第628回 中央社会保険医療協議会 総会(令和7年11月19日開催)」です。
「個別事項について(その8)小児・周産期医療、感染症対策、医療安全、災害医療」というくくりで、議論されています。※医療安全に関する議論は、108ページから始まります。
何が議論されているか
「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」からの報告書(案)をもとに、下記の観点で議論をされています。
医療法・医療安全対策加算の要件が見直される可能性があります。
- 医療安全管理委員会へ報告すべき重大事象の明確化
- 医療安全管理者の要件や担務
- 医療事故の判断に携わる者の研修受講
- 医療機関間の連携促進等

令和8年度診療報酬改定で医療安全が議論されている背景
なぜこのタイミングで議論されているのか
中央社会保険医療協議会での議論は、「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」の議論をもとに行われています。
検討会では、開催の目的を「これらを含む医療安全施策とその課題を整理し、対応策を検討すること」としています。
具体的な検討事項としては、下記です。
- 医療安全に関するこれまでの経緯と現状を踏まえた医療安全施策の課題
- 医療安全施策の課題を踏まえた対応
- その他
第1回(令和7年6月27日開催)から第5回(令和7年10月29日)まで開催され、「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会報告書(案)」をとりまとめました。

医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会の報告書(案)
検討会がとりまとめた「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会 報告書(案)」より、特に「4.今後の方向性」が、診療報酬改定の検討項目として論点に上がっています。
診療報酬改定の検討項目として関連する部分を引用・抜粋してご紹介します。
(1)医療機関における医療安全管理体制
(重大事象把握の質向上)
○ 医療機関において発生した重大事象を医療安全管理委員会等が確実に把握できるようにする観点から、厚生労働科学研究において検討された患者への影響度が高く、かつ回避可能性が高い 12 の事象(補足資料5ページを参照)について、病院等において医療安全管理委員会等に報告すべき重大事象に含めることが適当である。
○ 同研究において患者への影響度が高いが回避可能性は必ずしも高くないとされた 12 の事象(補足資料6ページを参照)についても、院内で集積・傾向を把握し必要時に分析・対応することにより医療安全の向上に寄与し得るため、病院等において医療安全管理委員会等に報告すべき重大事象に含めるよう努めることが適当である。
例えば、レポートとして管理し医療安全管理者が委員会へ報告する事象が、具体的に定められる可能性があります。
基本的には、死亡や後遺障害などが発生するようなレベル4・5以上の事業が類型として例示されています。一度、具体的なA類型12事象・B類型12事象についてはご確認ください。



(報告分析・改善策立案の質向上)
○ 医療機関全体の安全管理を担当する者を明確にし、組織として医療安全に取り組む体制の整備を推進する観点から、医療安全管理者を、医療安全管理委員会と連携し、当該医療機関の医療安全に責任を持つ者またはその責任者から指示をけて業務を行う者として、医療法の制度上に位置づけ、その役割等を明確化すべきである。(以下略)
(管理者によるガバナンスの強化)
○ 医療機関で重大事象が発生した際に、管理者が適切にガバナンスを発揮し、対応を進められるよう、必要に応じて管理者が医療安全管理委員会等と連携しながら、個別の診療の継続の可否(手術の一時停止の必要性等)の判断を含めて、必要な対応を行えることを明確化すべきである。
(改善策への取組の強化)
○ 医療安全管理委員会で検討された取組等を実際の現場に周知し、機能的に実践できる組織体制の構築を推進するため、厚生労働科学研究等を活用しながら医療安全管理委員会の構成員の役割、医療安全推進担当者の位置づけ及び役割等の現状を把握し、これらの明確化を検討することが望まれる。
これまで、医療安全管理者の位置づけは診療報酬の施設基準の中で定められていましたが、医療法のなかで定められ、よりはっきりとした役割と権限(個別診療の継続可否など含め)が担わされると考えてます。医療安全に関するガバナンスを、医療安全管理者や委員会を中心により発揮できるような体制を整えようという意図を感じます。
また、あわせてセーフティーマネージャー・リスクマネージャー・医療安全推進委員など、医療安全の活動をするメンバーについて様々な名称・役割が各病院で用いられていましたが、この名称や役割も定められる予定です。
(医療安全に係る外部からの支援の充実)
○ 各医療機関の有する知見や医療安全に係る資源を有効活用する観点から、一部の医療機関で行われている医療機関同士が相互に医療安全の取組を評価し改善する取組については、特定機能病院も含めてさらに推進することが重要である。加えて、一部の地域で行われている複数の医療機関がネットワークを作り、医療安全に関する情報交換や相互支援等を行う取組についても、地域の実情に則して推進するべきである。
(2)医療事故調査制度
(医療事故判断の質向上)
○ 医療機関において医療事故が疑われる事例を適切に抽出し、効率的かつ機能的に医療事故報告を行う体制を強化するため、全死亡・死産事例のスクリーニング方法や医療事故判断のための検討会議の開催手順といった、医療法施行規則に基づき医療機関が把握した全死亡・死産事例をチェックし、医療事故に該当する可能性のある事例を抽出、必要に応じて支援団体等へ支援を求め、最終的にその該当性を判断するまでのプロセスを各医療機関において整備し、医療安全管理指針に記載することを求めるべきである。
併せて、医療事故判断について事後検証を可能とする目的で、そうした各プロセスにおける判断結果および理由等に関する記録及びその保存を求めるべきである。
全死亡・死産事例の報告・スクリーニングまで行っている病院様は、なかなか少ないと感じております。
本改定では、死亡・死産事例の報告・スクリーニング・デスカンファの実施などが、医療安全管理指針に記載される可能性があります。
○ 医療事故かどうかを適切に判断するためには、医療事故の判断に携わる者が制度を十分に理解していることが不可欠であることから、管理者等の医療機関で医療事故の判断に携わる者に対し、医療事故調査制度に関する研修を受講することを求めるべきである。研修を受講する者は管理者が望ましいが、管理者以外の者が研修を受講する場合には、その者が管理者の医療事故判断を支援することを求めるべきである。(以下略)
参考情報:各病院での医療安全の取り組み
検討会にて、参考人より各病院の医療安全の具体的な取り組みが紹介されていました。
各病院の組織・運用・報告状況などが事例として共有されていますので、ぜひご覧ください。
- 日本の医療安全25年の歩み 医療現場がどう変わったか(横浜市立大学附属病院 医療安全管理部)
- 患者安全におけるインシデント報告・学習システムの位置づけと課題(名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部)
- 民間病院の医療安全(社会医療法人博愛会菅間記念病院)
今後のスケジュール
令和8年度(2026年度)診療報酬改定は、下記のスケジュールで進むと予想しています。
- 2025年12月下旬 改定率の決定
- 2026年01月下旬 個別改定項目案
- 2026年02月中旬 個別改定項目・答申
- 2026年06月01日 改定点数の施行
個別改定項目案が出てきましたら、「具体的に医療安全管理対策加算の要件がどのように変わったのか?」についてもご紹介します。
まとめ
2024年末から2025年にかけて、NHKのクローズアップ現代をかわきりに、一般国民向けに医療安全に関する特集・報道が行われました。
一般国民の関心が集まったきっかけは、個別の医師・病院による医療事故の情報がインターネット・SNS上で拡散したことだったように記憶しております。
医療安全に関する国民の目線はより一層厳しくなり、地域包括ケアの推進に伴い関わるステークホルダーも行政・地域・介護事業者など多様化しているように感じます。
時流に合わせて、医療安全管理者の職務や責任の範囲が、ますます広く・強くなるのではないかと考えています。
本記事では、令和8年度(2026年度)診療報酬改定での医療安全に関する議論をまとめ、紹介しました。
e-Risknは、医療安全管理者のお役に立てる情報発信を続けてまいります。
