医療安全管理者の皆様、「院内で呼びかけているのに、インシデント・アクシデントレポートの件数が、思ったように集まらない」というお悩みはありませんか。
インシデントレポートは、インシデントの原因を突き止め、再発防止策を実行するために、必要な病院の資産です。
私たちe-RisknCSチームは、2002年より全国の病院様へインシデントレポートシステムを導入してきました。この記事では、実際に病院様で行われている取り組みや、導入中に相談されて工夫した取り組みをご紹介します。
この記事が、「どうしたら、もっとスタッフにインシデントレポートを書いてもらえるだろうか」という悩みにお役に立てば幸いです。
インシデントレポートの望ましい報告件数は?
一般的には、「レポートの報告件数が病床数の5倍,そのうち1割が医師からの報告であること」が、医療安全活動の透明性の目安と言われています。
例えば300床規模の病院だと、1500件/年・内150件を医師からの報告で占めるのが望ましいと言えます。
目安とはいえ、ここまでの件数を集められている病院様は少ないのが現実ではないでしょうか。
「インシデントレポート総数が病床数の5倍,そのうち1割が医師からの報告」
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2010/PA02882_01
インシデントレポートの件数が増えないのはなぜか?
インシデントレポートの件数が増えない理由は、5つあると考えます。
作成するのに時間がかかる
スタッフは、業務の間にレポートを作成しなければなりません。
入力項目が多いと、レポート作成は後回しになり、報告が漏れる可能性があります。
書き方がわからない
院内には、様々な専門性を持ったスタッフが働いています。
久しぶりにレポートを作成するというスタッフも多いはずです。
どこに・どのような内容を・どれくらい記入すればよいのか、
どんなときに・どの選択肢を選べばいいのか、
書き方がわからないとレポート作成に時間がかかり、報告が遅れます。
レポートを書いても、事故防止に貢献していない
レポートを書いても、改善につながらず書く意味を感じられないという、ケースがあります。
レポートの有効性や、フィードバックの少なさが原因です。
上司や同僚から、責任を追及されるのではないか
スタッフには、インシデントの責任を上司や同僚から追及されるのではないか、という不安があります。
提出後の関係者ヒアリングや事実確認も、責められていると感じるケースがあるので注意が必要です。
報告の必要が無いと思っていた
特にレベル0やレベル1のインシデントなど、患者様へ行為を実施しなかった、実施したが影響が無かった場合、報告の必要性を感じないのかもしれません。
また、報告の習慣や当事者意識が薄いことも原因として考えられます。
インシデントレポートの件数を増やす12個の工夫
件数が増えない原因別に、12個の工夫をご紹介します。
作成するのに時間がかかる
1.レポートの様式が、いつでも手に入る
インシデントが発生したとき、すぐに様式は入手可能ですか?
スタッフが、書きたいときに書ける環境を整えます。
紙の場合
病棟や診察室だけでなく、薬局や検査室など各部署や部屋ごとに、様式は印刷して用意してありますか。
また、最新の様式になっているでしょうか。
様式が古いと書き直しが発生し、二度手間です。
エクセルの場合
スタッフ全員がアクセスできる場所に、報告様式のファイルはありますか。
使用できるパソコンが限られていると、スタッフが書くタイミングを逃してしまいます。
システム
システムにアクセスできるパソコンは、豊富に用意されていますか。
また、職員全員がログインできますか。
いつでも職員がログインできるよう、職員マスタは最新に保ちましょう。
2.入力項目は最低限にする
入力項目は、できるだけ最小限になるよう見直します。
分析に使っていない項目や、現在使っていない項目は、様式から削除しましょう。
入力項目が多いと、スタッフは入力を躊躇します。
また、文章で入力をさせる項目は、最小限にすることも大切です。
3.必須項目は最低限にする
必須項目は、最低限にします。
入力漏れを防止するために、あれもこれも必須項目にしてしまいがちです。
スタッフは、必須項目が多すぎると、なかなか最後までレポートを埋められず、提出を諦めてしまいます。
4.選択式の入力項目を増やす
チェックやリストからの選択で、入力できる項目を増やします。
選択肢も、できるだけ少なくし選びやすいことが大切です。
例えば、病院移転や診療科・部署の見直しの際には、選択肢が現状にあっているか確認します。
必要な選択肢が無い、今は使っていない選択肢が表示されるといったことは避けましょう。
5.マスタからの自動転記
スタッフの情報や患者様の情報は、自動で転記する仕組みを用意します。
- スタッフの情報:名前・所属・職種など
- 患者様の情報:名前・患者番号・年齢・性別など
書き方がわからない
6.記入例やヘルプ機能を設ける
書きなれないスタッフは、何をどこに書いていいか、わからないケースもあります。
以下のようなヘルプ機能を検討しましょう。
- 記入例のレポートを用意する。
- 入力項目にコメントを付けて、入力例を表示する。
- どの選択肢を選べばいいか、選択例を表示する。(特に事故内容や事故レベルなど。)
7.他の人が書いたレポートを共有する
似た事象やお手本にすべきレポートを参照できれば、どのような内容を記載すべきか参考にできます。
報告の必要が無いと思っていた
8.レベルゼロ(ヒヤリハット)を集める
スタッフは、報告の習慣が無いのかもしれません。
インシデントレポートを書くほどではないが、業務上でヒヤリハットしたことを、
レベルゼロ報告として集めてみましょう。
ゼロレベル報告の例
- 患者様へ実施することは無かったが、ヒヤリハットした
- 職員同士で、業務上の間違いに気づいた
- 業務上の気付きを得られた
入力項目は3-4個程度にし、提出のしやすさを優先させます。
インシデントの芽に気付きやすくなり、レポートを書く習慣の定着が期待できます。
提出しても,事故防止に貢献しない
9.レポート件数を公開する
部署や職種毎の件数を、スタッフ全体へ公開します。
自分の職種や部署の報告実態を、客観的に捉えられます。
件数が多い部署の取り組みを真似したり、極端に件数の少ない職種に報告を促したり、
といった施策につながります。
10.カンファレンスや委員会での検討結果や改善策を、公開する
セーフティーマネージャーやリスクマネージャーが協議した内容は、積極的に発信することをおすすめしています。
事象や改善策の周知のためだけではなく、自分の書いたレポートがどのように検討されて改善策に結びついたのか、スタッフへのフィードバックにも繋がります。
改善前と改善後のデータや写真も添付できると、レポートの有効性を認識してもらいやすくなります。
責任を追及される
11.報告が人事考課に影響しないことを、研修で発信する。
全体研修や新人教育で、インシデントの報告が人事考課に影響しないと認識してもらう必要があります。
また、なぜインシデントの報告が必要なのか、どのように再発防止に役立てられているのかも説明します。
レポートの提出はスタッフ自身や病院を守る資料になることも、伝えたほうが良いでしょう。
研修の際には、院内で発生したインシデントを用いて、改善前と改善後のデータや写真も紹介できると、参加者の興味を引くことができ、おすすめです。
12.匿名で報告してもらう
スタッフを匿名にすると、報告者の心理的な安全性が確保されて、真実が報告されやすくなると言われています。
報告のしやすさだけでなく、報告者を守るために、匿名での報告をおすすめしています。
まとめ
この記事でご紹介した、12個の工夫は、実際に病院様で行われている取り組みや、導入中に相談されて工夫した取り組みです。インシデントレポートが思うように集まらず、お悩みの医療安全管理者様はぜひ試してみてください。