医療安全管理者の皆様、「インシデントレポートシステムの導入をしたいが、何を基準にシステムを選べばいいかわからない」というお悩みはありませんか。
インシデントレポートシステムの製品サイトやカタログは、魅力的な機能や売り文句であふれています。システムを導入しさえすれば、今抱えている問題がパッと解決できるような錯覚さえ覚えるでしょう。
製品サイトやカタログの情報だけでは、どのシステムが自院の運用に合うのか判断できません。
自院に合う・自分たちが使いこなせるインシデントレポートシステムを選ぶためには、システムのデモや機能を比較する前に、「選ぶ基準」を決めることをおすすめしています。
この記事では、システムを選ぶ基準の作り方・デモや試用時に確認するポイントをご紹介します。
この記事が、「使いこなせるインシデントレポートシステムを導入したい」という悩みのお役に立てば幸いです。
インシデントレポートシステムを選ぶ際には、情報収集を行う前に「選ぶ基準」を考えましょう。
選ぶ基準は、4つのステップで作っていきます。
- システム導入の目的を明確にする
- 欲しい機能を定める
- 必要な条件を調べる
- 選ぶ基準を決める
システム導入の目的を明確にする
システムを導入するためには、時間・労力・コストがかかります。
せっかく時間・労力・コストをかけて導入するのですから、導入の効果を期待してしまいます。
導入の効果は、現在抱えている課題がどれくらい解決できるかという点ではかれます。
現状の運用を整理する
まずは現状の運用を、下記のポイントから整理しましょう。
医療安全管理室や医療安全管理者が管理・報告を受けているレポートの種類
レポートの例
- インシデントレポート
- アクシデントレポート
- 転倒転落の報告
- 患者様・ご家族・地域からのクレーム
- 院内暴力の報告
- 針刺し・切創の報告
- 皮膚粘膜・曝露の報告
- 副作用・副反応の報告…等
各レポートの様式
実際に使用している各レポートの様式を集めます。
レポートを提出した後の流れ
提出後の運用例
- 職員が作成したレポートは各部署のリスクマネージャーへ提出する
- リスクマネージャーはチェックの後、部門長へ提出する
- 部門長はチェックの後、医療安全管理者へ提出する
- 医療安全管理者は1か月分のレポートのうち、現場で共有してもらいたいレポートを各部署へ配布する。
職員がいつ・どのようにレポートを作成しているか
- 職員がレポートをいつ書いているか
- レポートをパソコンで書いているなら、パソコンの台数は十分か
- レポートの提出・報告はスムーズか
どんな報告・資料作成をしているか
- 毎月の報告件数
- 作成している統計は何があるか
- 作成している資料は何があるか
抱えている課題を明らかにする
現状の運用からどこを改善したいのか、自院が抱えている課題を考えます。
抱えている課題が明らかになれば、その課題の解決こそがシステム導入の目的となります。
例えば、下記のような課題をよくお聞きします。
職員が抱える課題と目的の例
- インシデントレポートを書くのが面倒。 → インシデントレポートシステムを使えるパソコンを増やし、職員が思ったときにいつでも・どこでも書けるようにする。
- インシデントレポートを書くのに時間がかかる。 → 選択式の入力増やす・入力項目を自動流用する・コピー&ペーストできるなどの入力補助機能で簡単にレポートを書けるようし、作成にかかる時間を減らす。
- インシデントレポートを書きたくない。 → 報告者や入力者の個人情報を伏せて報告できるようにし、心理的な障害を取り除く。
医療安全管理者が抱える課題と目的の例
- インシデントレポートの報告件数が少ない。 → いつでも・どこでも・簡単にレポートが書ける環境を整えて、報告件数を増やす。
- 特定の部署や職種からの報告が少ない。 → 他部署や他職種のレポートを簡単に参照できる環境を整えて参考にしてもらいつつ、報告件数を増やす。
- インシデントレポートの提出・共有が遅い。 → 職員がレポートを作成すると、すぐに関係者は共有できる。
- 委員会や報告用の統計・資料作成が面倒。 → 報告用の統計や資料作成にかかる時間を減らす。
- 監査や機能評価の度に対応に追われる。 → 必要や書類や資料が一目でわかるように準備できる。
- 改善や職員教育に時間をかけれない。 → レポートチェック・事務作業の時間を減らし、改善・教育活動の時間を作る。
欲しい機能を決める
インシデントレポートシステムには、多くの機能や役割があるように見えますが、大きく分けると4つの機能がメインです。
インシデントレポートを書く
インシデントレポートを書く機能の使い勝手が悪いと、せっかくシステムを導入してもレポートの報告件数が減少してしまったり、業務効率を妨げたりしてしまいます。
インシデントレポートを書く機能の中でチェックしておきたい選定基準は、下記の4つです。
- 入力のしやすさ パッと見ただけでレポートの作成方法がわかるかどうか、入力に迷わない画面かを確認します。
- 入力項目の調整ができるか 病院独自の入力項目や選択肢の追加ができるか確認します。
- 入力の補助機能 選択式で入力ができる・患者様や職員の情報の自動流用ができる・レポートの一時保存ができるなど、入力を楽にする機能があるかどうかを確認します。
- 対応様式の種類 インシデントレポート以外にも、使用したい様式がある場合には、標準で提供される様式の種類や様式の追加ができるか確認します。
インシデントレポートの承認・共有
インシデントレポートを書いた後に、関係者の承認をもらいレポートを院内で共有するための機能です。
インシデントレポートの承認・共有機能でチェックしておきたい選定基準は、下記の3つです。
- 自院に合わせた承認運用ができるか 誰に・いつ承認をもらうのかは、病院によって様々です。 自院の運用が可能かどうか確認します。
- 自院に合わせたレポート共有ができるか レポートを一般職員の方に共有する際に、部署や職種・個人を制限できるのか、報告者や当事者など隠したい情報を隠せるか確認します。
- 承認や共有の操作が面倒ではないか 承認者が変更となったり、レポートの内容によって部署や担当者を追加する場合に、操作が面倒でないか確認します。
インシデントレポートの検索・印刷
インシデントレポートを様々な条件で検索するための機能です。
インシデントレポートの検索・印刷機能でチェックしておきたい選定基準は、下記2つです。
- よく使う検索条件の指定ができるか 日付・部署・レベル・事故内容・患者番号など、検索したい条件が指定できるか確認します。
- 委員会で使用できる資料が作れそうか 委員会やカンファレンスで使用している資料(一覧など)が用意できるか、レポートをまとめて印刷できるかを確認します。
統計作成
インシデントレポートの報告内容から、統計を作成するための機能です。
インシデントレポートの統計作成機能でチェックしておきたい選定基準は、下記3つです。
- 統計はリアルタイムに集計できるか レポートの登録から、統計に反映される前にタイムラグが無いか確認します。
- よく使う統計は出力できるか 自院で使っていた統計、今後集計したいと考えていた統計が出力できるか確認します。
- 統計は二次加工ができるか 統計の結果をさらに二次加工できるか、表やグラフが別の資料で使用できるかを確認します。
機能以外の使うために必要な条件を調べる
システムを検討する際には、機能以外にも確認するべき条件が大きく4つあります。
動作環境
今あるサーバーやパソコンでシステムを動かせるのか、必要な機器やソフトが無いかを調べます。
また、システムのインストールや特別な設定が必要かどうかも合わせて調べます。
今後、使用するパソコンを増やしたり入れ替えたりした場合に、簡単にインストールや設定ができるのかも確認したほうが良いでしょう。
- サーバーの有無
- 使用するパソコンの動作環境
- インストール方法
- 必要なソフト
導入メニュー・サポートメニュー
システムを使いこなすためには、教育やマスタの整備、稼働後のサポートが必要です。
- 実際のシステム導入の流れ・メニュー
- 操作研修の回数や内容
- 稼働後のサポート体制
- 問い合わせ方法(メール・電話・リモートでの操作など)
- バージョンアップ対応(要望や不具合をバージョンアップで対応してくれるかなど)
導入の手間・のりかえやすさ
導入に必要なスケジュールや具体的な作業内容についても調査します。
また、現在使用しているシステムがあってデータ移行を希望する場合は、データ移行が出来るかどうかも調査しましょう。
- 導入にかかる標準的な期間
- 予想される作業
- データ移行の可否(今のシステムからデータが出力できるか、新しいシステムでデータが取り込めるか)
電子カルテとの連携
インシデントレポートシステムは、電子カルテとは連携せずに単独で動く製品もあります。
入力項目を少しでも減らし、システムを見る習慣をつけるためにも、電子カルテと連携したほうが導入効果は見込めるでしょう。
電子カルテとの連携を希望する場合には、連携ができるかどうかを確認します。
- 電子カルテとの連携可否(電子カルテベンダーにも確認する)
選ぶ基準を決める
選ぶ基準やその優先度がおおよそ固まり、自院に導入するインシデントレポートシステムのイメージがついてきたはずです。 最終的にもっとも自院に合うシステムを、どのように選ぶかをご紹介します。
予算内で導入できそうか
予算内で導入できるシステムの中から、必要な機能や条件を満たすシステムを選びます。
参考までに、病院様向けのインシデントレポートシステムの価格帯は、大体250万~400万程度です。病床数や職員数(ID数)、利用するパソコンの台数で変動する場合もあります。
なるべく多くの部署で多くの職員に使ってもらい、レポート件数を増やしたいと思うのであれば、職員数(ID数)や利用するパソコンの台数で料金が変動するシステムは高額になります。
課題が解決できそうか
前述の「抱えている課題を明らかにする」にて、自院が抱えている課題の解決をシステム導入の目的としました。
せっかく時間・労力・コストをかけて導入するのですから、現在抱えている課題に優先順位をつけ、どれくらい解決できそうかという点でシステムを選びます。
システムを導入すれば解決できる課題なのか、選ぶシステムによって解決できるかが変わってしまうのか、資料やデモ、お試し版の利用の際に確認しましょう。
選ぶ基準を決めたその後の流れ
選ぶ基準が定まったら、いよいよ具体的なシステムの選定に移ります。
システムの選定を行う際には、下記の流れで行うとスムーズです。
各社へ資料請求する
ホームページなどで検索し、各社へ資料請求をします。
自院の選ぶ基準に合致するかどうかという視点で、資料を確認します。
デモを見る
資料を確認したのち、2~3社に絞ります。
多くの製品のデモを見たい気持ちもわかりますが、あまり多くの製品を見てしまうと1つ1つの製品の印象がぼやけ、記憶に残らなくなってしまいます。
結局決められない・決めるのに必要以上に迷ってしまう原因にもなりますので、多くても3社ほどに絞りましょう。
お試しでさわってみる
製品のデモを見たのち、お試しでシステムをさわってみましょう。
各社にデモ環境をお試しでさわれないか相談してみることをおすすめします。
資料やデモを見ただけでは機能や画面の確認はできても、操作性はどうか・自分や職員が使いこなせるかどうかは、実際に触ってみないとわかりません。
■デモやお試しの際に見るポイント
- 自分が使いこなせるか?
- 職員が使っているのが想像できるか?
- 重視した基準を満たすか?
まとめ
この記事でご紹介した、システムを選ぶ基準の作り方・デモや試用時に確認するポイントは、実際に病院様に相談された内容をもとにまとめています。
インシデントレポートシステムの選び方がわからない、とお悩みの医療安全管理者様はぜひ試してみてください。